The previous night of the world revolution
姉は、間違いなく天才であった。

ウィスタリアの家では、100年に一人の逸材と称されるほどに。

けれど、100年に一人、ではなかった。

だって、俺がいたから。

自分の力を過信するつもりはないが、俺は姉に負けず劣らず、天才であった。

姉の方が一皮剥けてはいるものの、俺も姉に遜色ないほどの才能があった。

幼い頃からだ。

それもあって、姉は俺を大事にしてくれたのだろう。

どれだけ幼い頃から厳しく教育されようと、持って生まれた素質というものはある。どれだけ磨いても、道端の石ころは宝石にはならない。

生まれ持った才能が、俺と姉にはあった。

兄が俺と姉を嫌ったのはそのせいだ。

間に挟まれた自分だけが、凡人だったから。

明らかに俺と姉の方が稀な存在のはずなのに、凡人の自分は努力不足のように見られてしまう。

兄は確かに気の毒だ。俺が同情したところで、兄にとっては嫌味でしかないのだろうけど、それでもやはり、気の毒だと思う。

兄の努力が不足していた訳では決してない。単純に兄には、俺と姉が持っていたほどの才能がなかった。それだけの話だ。

とはいえ、俺は兄が羨ましい。

才能なんてものがなければ、俺はもっと…自由に生きられたのではないかと。

何も考えず、へらへらと馬鹿でいられたんじゃないかと。

贅沢にも、そう思ってしまうのだ。

兄にとっては憤慨物なのだろうけど。

人間、隣の芝は青く見えるということなのだろう。

とにかく俺は幼い頃、姉に憧れた。姉のようになりたくて、姉に褒めてもらいたくて、毎日を耐えた。

俺の未来は、まだ明るかった。
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