The previous night of the world revolution
とはいえ、最初から仲良くなれた訳ではなかった。

ルシファーは俺が思っていた以上に、頑なであった。



「おはよう、ルシファー」

「…」

朝。食堂で彼に会うなり、俺はそう挨拶した。

ルシファーはゆったりと顔を上げ、しばしぽやんとして…それから、自分が話しかけられたことに気づいたらしく、はっとした。

「…おはようございます」

「遅いぞ」

俺が挨拶してから返事が来るまで、謎の間があった。

「済みません…」

「…」

単純にこの人、話しかけられ慣れてないのだ。

だから、反応が遅れる。

全く。まだまだ練習が必要そうだな。

ひとまず、返答の遅さについては置いておくとして。

気になることがもう一つ。

「お前。何だそれは」

「…?」

何のこと?みたいな顔をするな。

俺はルシファーの前に置かれた、白い陶器の皿を指差した。

「…朝食が何か?」

「お前は、うさぎか?」

学生寮の食事は、基本的にビュッフェ形式である。

だから、好きなものを好きな量、勝手に取って食えば良いのだが。

こいつは、何かふざけてるのだろうが。

ルシファーの皿には、なんともヘルシーそうな生野菜のサラダが、申し訳なさそうにちまっ、と乗っており。

更に横の方に、赤ん坊の拳大のパンが一つだけ。

食べる気があるのかと言いたくなるメニューである。

「まさかお前、そんなに痩せてる癖にダイエットするつもりじゃないだろうな」

「いや…そんなつもりは」

だろうな。こいつ、これ以上痩せたら向かう先は骸骨だ。

「ならもっと食べろ。折角のビュッフェ形式だぞ。食堂のおばさんが勘弁してくれって言うまで食べれば良いんだ」

「そんなに…朝から食べられないですよ」

「食べる習慣をつけないから食べられないんだ。お前、このままだと痩せ過ぎて倒れるぞ」

「…」

ルシファーは先日まで、酷いいじめに遭っていた。

そのせいでメンタルがやられた為、こいつの食欲はいつだって、常人の三分の一くらいしかないのだ。

それは分かるが、さすがにもう少し食べないと…いつ倒れるか分かったものじゃない。

俺がじっと睨むと、ルシファーは観念したような顔になり。

「…分かりました。じゃあサラダ追加してきますね」

「おい待て。それじゃ意味がない」

食べる気になったのは良いが、野菜を追加してどうする。

いや、野菜は大事であるけども。成長期に大切なのは、どちらかというと蛋白質。

そう。この男に決定的に欠乏しているのは、ビタミンではなく蛋白質である。

「駄目だ。ちょっと俺が取ってくるからそこで待ってろ」

「え、いや。でも」

「良いから黙って待ってろ」

「…はい」

素直にこくり、と頷くのを確認してから。

俺はルシファーの代わりに、彼の分と、ついでに自分の分の朝食を取りに行った。
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