意地悪な兄と恋愛ゲーム
その日の放課後。
サッカー部が練習をしているグラウンドの前を通った美咲は、違うクラスの親友に声をかけられた。
「美咲!!」
「あ、優ちゃん…」
中学校の時から仲良しの篠原優香が、サッカー部のフェンスの前から、美咲に手招きをしている。
それに誘われるように美咲も、そちらへと足を向けた。
「優ちゃん、何してるの?」
「片平先輩を見に来たんだよ」
あ、そっか。
晴斗はサッカー部だったっけ…?
「優ちゃんも晴斗の事が好きなの?」
「うーん、直接話したことないし、完全な好きとは違うけど、やっぱり憧れはあるよ?」
「憧れ?」
「先輩、サッカーすごく上手だし、見てると、オーラが他の人と全然違う。輝いてるし、やっぱカッコイイよね!」
優香は目をキラキラさせて言ってきた。
サッカーが上手?
他の人とオーラが違う?
輝いてる?
カッコいい?
理解に苦しむ単語ばかり。
私はやっぱり、ただのいじめっ子にしか見えないよ。
皆、本当に騙されてると思うけどなぁ…
はぁ…、とため息をつき、周りを見渡すと、他にも女の子が沢山見に来ている事に気づく。
この中のほとんどが晴斗目当てなのだろう。
「あ、あのマネ!また晴斗にくっついてるー!」
「またぁ!?今日、何度目!?」
隣で苦々しい表情を浮かべているのは、美咲の一つ上、晴斗と同級生の先輩達。
苛立ちを全開にして、フェンスを握る拳に力をこめている。
その視線の先を見つめると、ジャージ姿の女子生徒が立っている。
美咲と同じ一年生で、サッカー部のマネージャーをしている子だ。
休憩の指示を送る晴斗の隣に来ると、持っていたタオルを手渡すところだった。
「ありがとう」と晴斗がそのタオルを笑顔で受けとると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。
フェンスごしでも、晴斗に気があるのは丸わかりだった。
「あ~ん!もう、くっつくな~!」
「あのマネ、まだ治ってないの~?」
晴斗が汗を拭いて練習に戻ると、その子もヒョコヒョコと足を引きずるようにして歩き始めた。
「あのマネージャーの子、足ケガしてるんですか?」
優香が、その先輩達に問う。
「前にさ、晴斗の蹴ったボールがあの子にぶつかりそうになったの。それを避けようとして足をひねったんだって!」
「にしたって、あれから何日たってると思ってんの?絶対あの足、もう治ってるでしょ?」
「晴斗、優しいから責任感じて、毎日家まで送ってあげてるらしいよ!」
サッカー部のマネージャーを晴斗が家まで送り届けてるって、そう言えば、今日クラスでもその話をしてる子がいたっけ?
「絶対、騙されてるのにぃ!」
美咲はフェンスが握り潰されるような、ギリリ…という音を耳にする。
この先輩達、そのうち怒りで本当にフェンスを突き破って、あの二人の間に割って入りそうで怖い…
そんな悲惨な光景を想像し、恐怖を感じた美咲はそっと帰路についた―――