意地悪な兄と恋愛ゲーム
端整な顔立ちに成長して帰ってきた兄は、皆を欺くその美貌と優しさを武器に、また、壮絶な虐めを仕掛けてくるかもしれない……
そんな事を思うと、この男から逃れて今すぐに自室に駆け込みたくて仕方がなくなる。
「ごめんね…」
その言葉と共に、いつの間にか俯いていた美咲の頭に、ポンと手を添えられている。
その手のひらは、想像以上に大きく、温かく、声は寂しげなのに、優しかった。
信じられずに顔を上げれば、晴斗は美咲とすれ違い、そのまま脱衣室へ入って行ってしまった。
『前にさ、晴斗の蹴ったボールがあの子に当たりそうになったの。それを避けようとして足ひねったんだって!』
『晴斗、優しいから責任感じて、毎日家まで送ってあげてるらしいよ!』
こんなに帰りが遅いのは、あのマネージャーを毎日家まで送り届けてあげているから?
晴斗の疲れたような顔が、頭の中にもう一度蘇って、美咲は首を横に振った。
晴斗がどこで誰に優しくしていたって、自分には一切関係のない事だ。
晴斗と離れて暮らしていたこの何年も、美咲は苦手な晴斗の存在をずっとかき消すようにして暮らしてきた。
また、一緒に暮らし始めたからと言って、それが変わる事はない。
この先も、なるべく関わらないようにして暮らすだけ…
美咲は、晴斗の思いがけない温もりを振り切るように、早足で自室へ続く階段を駆け上がった____