意地悪な兄と恋愛ゲーム
「美咲は何で立ってるの?朝食、食べないの?」
美咲の棒立ちに気がついた晴斗が、不思議そうに美咲を見上げて聞いてきた。
晴斗がいなけりゃ、食べてたよ!
それはもう、平和な平日の朝だったよ!
そう叫んでやりたいけど……
「た、食べます…」
サッカー部に朝練がある事は、私のリサーチ不足だったと、ここはグッと堪えた。
「何で敬語なの?」
目の前の晴斗は、朝から目が眩むような、完璧な笑みを浮かべて聞いてくる。
今ここにクラスメイトがいたなら、皆卒倒しているレベルの爽やかさ。
でも私は違う。
その笑顔が怖くて、思わず逃げ出したくなって、隣の椅子にかけていた自分の鞄に手を伸ばしたが、母がキッチンのカウンターごしに、こちらにジトリとした視線を送っている事に気がつき、私の右手は仕方なく、テーブルへ向かう。
ゴホンと咳払いをし、ようやく椅子に腰掛けると、晴斗が更に話しかけてきた。
「美咲も朝は、いつもこんなに早いの?」
「別に…。今日だけだよ」
心の声をそのままにしたような素っ気無い返事になってしまった。
晴斗からフイと顔を背け、トーストをかじる。
「そう…」
晴斗から笑顔が消え、それ以上何も聞いて来なくなった。
何だかまた少し、気まずくなるのも事実で…
「サッカー部の朝練、毎日なんだよね?」と、当たり障りのない話を切り出した。
「そうだよ」
「今朝と同じ時間に行くの?」
「まぁ、だいたいね…」
よし、じゃあ明日からはずっと、いつも通りの起床でいいなと、心の中で安堵する。
「じゃあ、俺行くね」と、晴斗がいきなり席を立った。