うみに溺れる。
I

止まった時間



楽しい思い出の中だけで生きていく事が出来るのはきっと漫画やドラマの世界だけ。

“あぁいうの”は途中で挫折や絶望を味わっても、そこから堕ちる事なく前を向き何もかも上手くいきだして必ずハッピーエンドへと向かう。


漫画やドラマの世界でもない私の人生はまさに苦しく、このまま消えてしまいたいとさえ思う。

1日の始まりがこんなにも憂鬱で絶望的なのはきっと私の時間があの日から止まっているから。
周りが前を向いて歩く中、私だけがそれに逆らうように歩いているような……留まっているような。

そんな感覚。

コンコンコン、と部屋のドアがノックされたのはブラインドの隙間から差し込む太陽に目が覚めた時だった。
そしてこちらの返事も聞かずにドアは無遠慮に開けられ、そのブラインドもシャッと音を立てて纏められた。


「海、そろそろ起きなさい」

「……起きてるよ」

「準備しなさいって言ってるの!」


プンプンと怒るお母さんを横目にスマホで時間を確認すると家を出る30分前となっていた。
確かにそろそろ準備して早々に家を出ないと遅刻になってしまう。


「ったく…。空人くんもう来てるんだからね!」

「…は、?」


まだ覚醒しきれてない思考回路がピシッと音を立てたのが分かった。


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