うみに溺れる。
「雫玖!」
どんどん奥へと進んでいく雫玖の背中に思い切り声をぶつけても聞こえなかったのか振り返らない。
海風が強いせいかかき消されているのかもしれない。
「っ、雫玖!」
サクサクと慣れたように奥へ歩いて行く。
俺は雫玖や海よりもここに来るのは少ない方だと思うけど、地元の浜辺にこんな所があったのかと思うほど気付けば岩場が見えてきていた。
なんだろう、何か嫌な感じがする。
「お、おい!雫玖っ?」
声は届いているはずなのに何度も何度も呼んでも雫玖は振り返らない。
岩場の中に入って行った雫玖の後を追いかけて中に入ると、そこには少し広い空間が広がっていた。
天井は穴が空いていてそこから太陽が差し込んで光の筋を何本も作っている。
その光の筋が1本、雫玖に当たっていてまるでスポットライトだった。
思わず息を飲んだ。
足がすくんでその場から動けない。
……あまりにも綺麗、だったから。