うみに溺れる。


『海、ごめん今日一緒に帰れないかも』

『え?なんかあるの?』

『母さんと出掛ける予定があって、早めに帰らなきゃいけないんだ』


私はその日、日直で少しだけ皆よりも帰るタイミングが遅くなってしまう。


『あー、じゃあ私空人と帰ろうかな』

『え?』


冬のこの季節、日が落ちるのが早く放課後になるもう既に暗くなっていた。
1人で帰らせるのは心配だ、と言う雫玖に解決策を差し出したというのに雫玖は表情を歪ませた。

空人は幼なじみだし、昔から知ってるし。
だって、あの空人だし。


『……空人も部活あるから一緒に帰れないんじゃない?』

『あ、そっか。でもまぁ私は暇だし、いくらでも待てるから待ってようかな』


空人だったら安心でしょ?
と聞くと、『そうだね』と言われた。

ちょうど良かった。聞きたいこともあったし。

その時の私を雫玖がどんな気持ちで、どんな表情をして見ていたのかを私はこれからも知る事はない。

< 69 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop