Rescue Me
 私は高校に入るとすぐにアメリカに渡った為、ある意味先輩後輩というような日本独特の縦社会的な関係をあまり経験しないで社会人になった。なので高嶺コーポレーションに入社した時、典型的な縦社会で構成されていて、集団意識の強い社風にとても違和感を感じたのを覚えている。社長もアメリカの大学に行って向こうで何年か暮らして、横社会的な実力主義で平等な環境が合っていたのではないだろうか。

 「社長はもしかすると、アメリカの方が合ってるのかもしれないですね」

 「えっ……?」

 彼はびっくりしたように私を見た。

 「社長は行動力もあるし、努力家で実力もある……。きっとアメリカで成功するタイプだと思います」

 私は微笑んで彼を見た。彼がアメリカで自由に伸び伸びと自分の実力を試し、皆にその努力や能力を認められる姿が思い浮かぶ。確かに実力主義で厳しい所もあるが、彼なら必ず出来ると思う。

 「そうか……」

 社長は私の言葉になぜか嬉しそうにすると、じっと考え深げに私を見つめた。

 「あの、まだお代わりありますけど、いりますか?」

 量が足りなかったのかなと思って聞くと、社長は首を横に振った。

 「いや、ただ蒼と結婚するとこんな感じなのかなと思って」

 「えっ……?」

 社長がいきなりそんな事を言うので思わず頬が熱くなる。同棲とか家族に会いたいとか結婚とか、彼がどんどん先を考えている事に少し驚く。

 「いいな、こういう感じ。毎晩家に帰るとこうやって色々な話をしながら蒼の手料理食べるの」

 私は社長が先ほどしていた家族の話を思い出した。幸い私の両親はとても仲が良く、豪華ではないが毎晩母の手料理で家族団欒の楽しい食卓だった。もしかすると彼の家ではそうではなかったのではと思うととても切なくなる。

 「そうだ!メキシコ料理以外にもニューヨークに住んでいた時、アパートの下の階に住んでいたイタリア人老夫婦が教えてくれたポークと野菜のスープのレシピがあるんです。すごく美味しいんですよ。今度作るので一緒に食べましょうね」

 そう言うと、社長は少し目を伏せた後ふわりと微笑んで私を見た。

 「それは楽しみだな。それじゃ荷物をまとめておいで。ここは俺が片付けておくから」

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