Rescue Me
 「そんなところで何やってるんだ?風邪引くだろ。ベッドで待ってればよかったのに」

 そんなすごい事を何でもない事のように言える社長を凄いと思ってしまう。

 「社長が出てくるまでここで待ってようと思って……」

 緊張のあまり彼をまともに見ることもできない。社長は私の隣に座るとペットボトルから水をごくごくと飲んだ。

 「水飲むか?」

 彼がペットボトルをくれるのでそれを素直に受け取ってチビチビと飲む。そんな私を見てふっと笑うと、俯いて顔を隠している髪の毛をそっと耳にかけた。

 「大丈夫。何もしないからおいで」

 社長はゆっくりと私の手を引き寝室に入ると、ベッドの中に私を入れた。そして反対側に歩き、自分もベッドに入るとおやすみと頬にキスをして電気を消した。



 ── えっ…えぇっ……?本当にただ寝るだけなの?

 私は暗闇の中目を開いたまま呆然とした。

 あれだけ甘えるように誘惑してきたのであの勢いなら間違いなく今晩抱かれるような気がしていた。なので思いがけない展開でホッとした様ながっかりした様な複雑な気分になる。

 隣をちらりと見ると社長はすでに寝たのか目を閉じて規則的なゆっくりとした呼吸を繰り返している。自分もとりあえず寝ようと寝返りをうち目を閉じた。

 ……15分、もしかすると20分くらい経ったのかもしれない。どうしても寝れない私はもう一度寝返りを打った。

 ── 全然寝れない……

 以前病気になった時もこんな感じだったが、あの時は社長が私を抱きしめてくれてとても安心して眠れた。

 もしかすると彼に少し近寄れば寝れるかもしれない……。そう思いたって、彼を起こさない様にそっとすり寄った。するとすぐに社長の腕が動いて私を抱きしめた。

 「……桐生さん、起きてますか?」

 「……起きてる」

 見上げて小声で囁くと低い掠れた声で返事が返ってきた。

 「もう寝たかと思ってました」

 すると社長は深い溜息をついて少し困った様な顔をしながら私の頬を指で撫でた。

 「緊張しててなかなか寝れないんだ」

 そんな意外な答えが返ってきて、私は思わず彼をまじまじと見た。

 「社長でも緊張するんですか?」

 「そうだな。自分でも驚いてる。」
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