Rescue Me
 「もう、本当に信じられない!」

 くつくつ笑う桐生さんの後ろを、私は憤りながら早歩きで歩いた。いつも朝は時間のこともあってあそこまで抱かないのに、今日に限って彼は執拗に私を何度も抱いた。

 「始業時間ギリギリに出社するなんて。しかも今日は新しい秘書の人が入社してくる日なのに!」

 秘書室に入ると丁度八神さんが五十嵐さんと話しをしていて、私達が入ってくると顔を上げた。

 「遅れてしまい申し訳ありません」

 私は桐生さんをひと睨みすると、八神さんと五十嵐さんに深々と頭を下げた。顔をあげると二人とも清々しい顔の桐生さんを嫌な目で見ていた。

 「あの、今日入社される久我(くが)さんはもうこちらに……?」

 「彼なら今人事で手続きをしてるからもう少しでくると思うよ」

 そう五十嵐さんが言った時、秘書室のドアがノックされ、人事の月城(つきしろ)さんが眼鏡をかけた三十代前半の長身の男性、久我(くが)悠真(ゆうま)さんを連れて入ってきた。

 「あれ、社長とそれに副社長もこちらにいらっしゃったんですね。丁度良かった」

 月城さんはそう言うと、私達を順番に紹介した。

 「久我さん、こちらが桐生(きりゅう)社長、そしてこちらは先月新しく副社長へと就任された、八神(やがみ)副社長、それから秘書の七瀬(ななせ)さんと、こちらが現在秘書室をまとめていらっしゃる五十嵐(いがらし)さん。久我さんはしばらく五十嵐さんの下で色々と学んでください」

 「はい。よろしくお願いします」

 久我さんは頭を下げながら、低く艶のある声で私達に挨拶をした。

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