Rescue Me
 例え私たちはこうして一緒にいても彼には彼の仕事がありそして人生がある。

 これから先も彼の仕事柄接待で色々な女性にも会うだろうし元カノと仕事をしなければならない時もあるだろうし遅く帰宅する事も多々あるだろう。ある意味これは仕方のない事なのだ。いちいち悩んでいたらキリがない。

 桐生さんの事は誰よりも信用している。そして彼は結城さんと一緒に仕事をしている事で私が少し不安になっているのを知っている。だからわざわざ彼女の前であんな事をしたのだ。そんな彼の気遣いや優しさにはいつも心打たれる。
 
 ただ最近彼が何か隠し事をしている感じがする事と結城さんと頻繁に外出してしまう事にどうしても気分が凹んでしまう。

 ── 大丈夫。彼は仕事をしているだけなんだから。そんなぐだぐだ悩まないの!

 私は自分にそう言い聞かせ、再び時計を見るともうすぐで日付が変わろうとしていた。私は重い溜息をつくと、テーブルに残しておいた夕飯を片付け一人寝室に向かった。

 日付が変わってしばらく経った頃桐生さんが帰宅した音が玄関の方から聞こえてきた。

 彼がキッチンで冷蔵庫を開けたりする音が聞こえ、その後寝室の方に静かに歩いてくる。そっと寝室のドアを開けた桐生さんは私が寝ている方に歩いてくると「ただいま」と囁き私の頬にキスをした。

 彼からはタバコやお酒の匂いと共に結城さんの香水の匂いがふわりと漂ってくる。私はベッドの中でぎゅっと手を握りしめた。そして寝たふりをしながら心の中で繰り返し呟いた。

 ── 大丈夫。彼はただ仕事をしてるだけだから…。大丈夫。彼はただ仕事をしてるだけなのだから ──
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