Rescue Me
 「へぇー、そんな英語の勉強の仕方があるんだ。初めて知ったな。しかし七瀬さんは努力家だな」

 久我さんは感心したように言った。

 「もしよかったら英語の雑誌とかたくさんあるので貸しますよ」

 「ありがとう。……でも俺なんかに貸したりして彼氏に怒られない?」

 「え……?」

 「いや、その……ほら……」

 久我さんは自分の胸元を指でさして、出社初日に桐生さんにつけられたキスマークを見た事を仄めかした。

 ── あぁ、もう恥ずかしい……

 私は顔を赤くしながら俯いた。

 「いや、結構独占欲強そうな彼氏みたいだからさ。俺なんかに雑誌を貸して問題が起きるんじゃないかと思って」

 久我さんは顔を真っ赤にしている私を面白そうに見た。

 「いいんです。特に気にしたりはしないと思うので」

 私はそう言いながら最近の桐生さんを思い浮かべた。

 ここ最近私と彼はすれ違いが続いている。基本的に桐生さんは日中ほとんど会社に居らず、帰ってきてもその後会社で残業したり接待でどこかへ行ってしまったり結城さんと出かけてしまう。夜も私が寝た後に帰って来て朝は私が先に出てしまうので、一緒に住んでいても殆ど顔を合わさなくなってしまった。


 「はーい、こちら天ぷら蕎麦と蕎麦とカツ丼の定食です」

 私達の食事が運ばれ、とりあえず一旦会話を中断して食べ始める。ふと顔を上げると久我さんは私をククッと笑いながら見ていた。

 「あの、何か……?」

 「いや、なんか蕎麦を上品にと言うか、不味そうに食うんだなと思って。」

 「えっ……?」

 「音を立てない様に凄く気を使って食うんだな。箸で少しずつ一口サイズに丸めてから食ってると言うか」

 「えっと、アメリカでずっとそうやって食べてたから……。向こうでは音を立てて食べるのはマナー違反なので……」

 私は変な蕎麦の食べ方を久我さんに見られてた事が恥ずかしくて、思わず顔を赤くした。

 「七瀬さん、すぐ顔が赤くなって可愛いな。これじゃ彼氏も心配だろうな……」

 久我さんはそう言ってクスリと笑うと、トンカツにかぶりついた。
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