Rescue Me
 「お母さんどこにいるかわかる?電話番号わかるかな?お母さんに電話して迎えに来てもらおうか?」

 しかし男の子は私とは目を合わさず、手の中のおもちゃを触ったりぶつぶつと何か独り言を言ったりと相変わらず私に無関心な様子を示す。それに次第に私が話しかけている緊張からなのか、体を前後に揺らしたりと落ち着きがなくなる。

 以前ニューヨークでダウン症の子供達と一緒に遊ぶボランティアをした時、子供の一人がこんな感じだったのを急に思い出した。何となくその時の感じに似ている気もするが、この子は見た感じ明らかにダウン症ではない。自閉症かな……と思うがよくわからない。ただご両親は心配してきっとこの子を探しているに違いない。

 何とか住んでいる所か名前だけでも聞きたいが、私は専門家ではないので一体どのように接していいのかよくわからない。

 無理してストレスをかけてはいけないし、かと言ってここでいつまでも待っているわけにもいかない。どうしようかと途方に暮れたとき、突然背後から誰かが私を呼んだ。

 「七瀬さん……?」

 振り向くとカジュアルな格好をした久我さんがいた。しかし彼はいつもかけている眼鏡をかけておらず、髪もラフにスタイリングしていて長めの前髪がふわりと目に少しかかっている。

 「えっ……久我さん……?」

 瞬きをしながら別人のような久我さんを見た。

 「七瀬さん、この辺に住んでたの?びっくりした」

 久我さんは目にかかった前髪をかき上げると、買い物袋なのか大きな手提げ袋を二つほど持ちながら、私の所までやって来た。

 「違うんです。実はちょっと用事があってこの近所まで来たんですけど、迷子の子を見つけて。でも住んでいる所もわからないし聞いても答えてくれないから、どうしたらいいかわからなくて」

 私は先ほどからひたすら手の中のおもちゃで遊んでいる男の子をちらりと見た。
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