Rescue Me
 「いいえ、無事でよかったです」

 彼女にそう言うと、さっさとマンションの中に入っていく佑樹君を見ながら、無事に家まで送り届けられた事に安堵した。

 「それじゃ、私はこれで」

 無事役目も終わったので会釈をして元来た道を戻ろうとすると、久我さんが私を呼び止めた。

 「七瀬さん待って。家まで送ってくよ」

 「ええっ……?そんな、とんでもないです。自分で帰れるので大丈夫です」

 久我さんは、慌てて断る私を見るとふっと笑った。

 「『Pay it forward』だっけ?」

 「えっ……?」

 「ほら、映画のタイトル。七瀬さんが洋画を見て英語を勉強したらいいって教えてくれたから早速見てるんだよ」

 「え、本当ですか?」

 彼が私のアドバイスを早速実行してくれた事に少し嬉しくなる。

 「『Pay it forward』。いきなりタイトルから意味がわからなくて調べたよ。親切にされたら、他の人にも親切にするっていう意味だろ?」

 久我さんは映画のタイトルにもなっている英語の諺を持ち出した。

 「七瀬さんがあの子を助けた親切を見て、俺も七瀬さんに『Pay it forward』したいと思ったんだ」

 ── うーん。どうしよう……。

 『Pay it forward』は本来自分が親切にされたら、その親切をしてくれた人に返すのではなく、違う人に親切をしてあげるという意味だ。でも久我さんの言いたいことはわかる。要は親切で私を家まで送りたいと言っているのだ。何となく彼の親切を無下に断るわけにいかなくなってしまった。

 「わかりました……。では、お願いします……」

 「よかった」

 彼はそう言うと、持っていた買い物袋を持ち上げて私を見た。

 「これ、自分の部屋まで持って行きたいんだけど……俺の部屋まで一緒に来る?」

 「えっ……?い、いえ。ここで待っています」

 途端に警戒心を抱き訝しげに見ると、久我さんはクククっと面白そうに笑った。

 「じゃ、ちょっと待ってて。すぐに降りて来るから」

 彼はロビーからエレベータの方に向かって歩いて行った。
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