Rescue Me
 「むむむ無理です!」

 「大丈夫、大丈夫。ゆっくりと安全運転するから。ほら、これ芽衣のだけど頭小さいから入るよな」

 彼は鼻歌を歌いながら私にヘルメットをボスっとかぶせると、躊躇する私の手を取ってバイクの後ろに乗せた。住所を聞かれ桐生さんのマンションのある場所を伝えると、久我さんはヘルメットを被りバイクに跨ってブォンっとエンジンをかけた。

 「しっかり掴まってろよ。じゃないと後ろに転倒するから」

 「ええっ??」

 私は怖くて必死になって彼にしがみついた。

 バイクはゆっくりと彼のマンションから道路に進み、街の中を駆け抜けていく。初めに思っていたよりもバイクは安定感があり次第に余裕が出てきて、彼の大きな背中にしがみつきながら過ぎゆく美しい夜の街を眺めた。

 やがて桐生さんのマンション近くにバイクを停めた久我さんは、高級住宅地を物珍しそうに見たものの何も聞かずに私を降ろした。

 緊張していたのかバイクを降りた私は足元がおぼつかなくてふらついている。久我さんはくつくつ笑うと私のヘルメットをボスっと取った。

 外は既に暗く街灯の下にふらふらと立っている私は、まるで絶叫マシンから降りたばかりの様に顔が蒼白に違いない。

 彼は私の顔を見ると面白いものでも見たかの様にククッと笑った。そして溜息をつくと、私の顔にかかった髪をそっと指で払いながら「参ったな」と呟いた。

 「あの、わざわざ送っていただきありがとうございました」

 慌ててお礼をすると、久我さんは「どういたしまして」と微笑みヘルメットのシールドを下ろした。

 「それじゃ七瀬さん、また明日会社で」

 彼はブオンとバイクの低いエンジン音をさせながら去って行った。

 いまだふらつく足に何とか力を入れながらマンションへ帰ろうと振り返ると、何と暗闇から桐生さんが姿を現した。
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