Rescue Me
 「桐生さん!もう驚かさないでください!」

 私はドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながら彼を見た。

 「こんな所で何してるんですか?」

 「電話しても取らないし暗くなっても帰ってこないから、もしかして電車に乗ってるかと思って駅まで迎えに行こうと思ったんだ」

 彼は怒ったような傷付いたような顔で私を見た。

 「久我と今まで何処に行ってたんだ?」

 「えっ?違いますよ。ただ送ってくれただけです。実は里親の自宅訪問の後、迷子の男の子を見つけたんです。その時偶然通りかかった久我さんがその子と同じマンションに住んでいると教えてくれて……。それで男の子を家まで送り届けたら、その後親切に私をここまで送ってくれたんです」

 よくあれで久我さんだと分かったなと思いながらも、私は経緯を桐生さんに説明した。すると彼はハッと呆れたように乾いた笑いを漏らした。

 「親切?あれが親切か?あれだけあいつには隙を見せるなと言っただろ」

 「隙なんか見せてません!大体久我さんは私に彼氏がいるって知ってるし、それに大きなお子さんだっているんですよ」

 私は桐生さんの言い方にムッとして、マンションに向かって一人歩き出した。

 「一体それのどこがあいつに隙を見せてもいい理由になるんだ?」

 彼は私の後を早歩きで追って来る。

 「だから隙なんか見せてません!」

 私も負けじと早歩きで歩きながらマンションのロビーを通過する。

 彼にわけのわからないことで責められることに腹が立つと同時に、昨日の竹中さんや佳奈さんの言葉が頭に浮かぶ。私は遂に我慢ができなくなり、誰もいないエレベーターホールで思わず声を上げた。

 「桐生さんだって“毎日毎日”結城さんと一緒に出かけてるじゃないですか!!」

 「それは仕事だから仕方ないだろ!」

 桐生さんも苛立ちを抑え込む様な声で私に言う。

 「分かっています!だから私今まで一言も文句言ってないじゃないですか!」

 そう言ったものの実際にこうして口に出してみて、思っていたよりも彼が毎日結城さんと出かけている事に腹を立てていたのだと気付く。
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