Rescue Me
 「私にだって男の人の知り合いや友達だっているんです!桐生さんにいちいち言われたくないです!」

 私はエレベーターに乗ると苛立ち紛れに「閉」のボタンを何度も押した。

 「勝手にしろ。大体そんなだからいつも男につけ込まれるんだ」

 「なっ、そんな言い方しなくても……!」

 自分は仕事とは言え結城さんと毎日出かけているくせに、久我さんにただ送ってもらっただけでこんなに責められるなんて不条理すぎる。

 だんだんと腹が立ってきて、エレベーターが開くと桐生さんを無視してマンションの部屋に入った。こういう時まだ自分のあのアパートがあればと思ってしまう。

 「蒼……」

 桐生さんは少し気を落ち着け、溜息をつくと何か言いたそうに私の腕を掴んだ。しかし私は彼の腕を振りほどくと、何処か一人になれるところを探した。これ以上彼といると、何か後悔しそうな事を言いそうで怖い。

 「蒼!」

 彼が私を呼ぶ中、どんどん部屋の中を進み唯一彼を締め出して一人になれる場所、バスルームへと逃げ込み鍵をかけた。その途端一気に目の前が涙で霞んでくる。

 最近彼とはすれ違ってばかりだ。

 あれだけ毎朝毎晩抱かれていたのに、今ではろくに会話をする時間さえない。やっと会話ができたと思えばこうして喧嘩をしてしまう。あれ程近くに感じていた彼が今はとても遠くに感じる。

 先ほど桐生さんに初めて自分の気持ちをぶつけて分かったことがある。彼が仕事で結城さんと毎日過ごしているこの状況に、私は思っていたよりもずっと寂しくてそして悲しいのだ。

 しかし明日になればまた彼は結城さんと一緒に仕事に行く日々が続く。竹中さんと佳奈さんは言いたいことがあれば言えばいいと言うが、言った所で一体何が変わると言うのだろうか?どうせ先ほどの様に喧嘩して私たちの溝は深まるだけだ。

 私は涙を拭くと荷物をゴンっと床に落とし、着ていた服を全部脱ぎ捨てた。そして浴室に入ると冷え切った体に温かいシャワーを浴びながら、もう一度溢れる涙を拭った。

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