Rescue Me
 「お前この後また親父さんの会社に行くのか?」

 颯人は何もかもが嫌になり机に突っ伏した。

 颯人は最近、本格的に父親の事業を引き継ぐ為、6年間離れていた期間の穴埋めをする為に父親の会社に通っている。

 ところが父親がやたら冴子を秘書としてここへ連れて行け、あそこの商談に連れて行け、このビジネスランチへ一緒に出ろ、この接待に同行させろなど平日週末問わず命令してくる。実際に重要な会議や接待もあるが、中には颯人が出席しなくてもよいものも多々ある。

 元々冴子は恐ろしく仕事ができる上に見た目もよく生まれも申し分ない為、昔から父親のお気に入りだ。そんな彼女をまるで嫌がらせの様に颯人に押し付け、蒼のいる自分のマンションへ帰す暇をわざと与えなくしているかのようだ。

 それに追い打ちをかける様に、蒼は一人でも大丈夫だから早く仕事へ行けと笑顔で颯人を見送る。元々蒼は颯人の見た目にも金にも興味がなく、彼が拝み倒して付き合った様なものだ。彼女がいつも笑顔で颯人を見送る度に、一緒に過ごせなくて寂しい思いをしているのは自分だけなのかと悲しくなる。

 そしてそれに更に追い打ちをかけるのは、あの久我の存在だ。彼は蒼の周りをいつもうろうろしている。先日蒼が久我と一緒にバイクに乗って帰ってきた時のショックは、心臓が凍りつき息ができないほどだった。

 自分が寂しい思いをしながら必死に働いているのに、久我がその隙を狙って蒼を自分の物にしようとしていると思うと、落ち落ち仕事にも集中できない。

 颯人は初めから自分と同じ匂いのする久我に注意をしていた。彼は颯人と同じ何者も恐れず欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるタイプだ。

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