Rescue Me
 「ちょっと、颯人、聞いてるの?」

 その日の夜、颯人は高級レストランで食事をしていた。向かいには不満そうに自分を見ている冴子がいる。

 「親父がディナーミーティングだって言うから来たけど、誰もいないじゃないか。何で俺たちはこんなところで飯食ってるんだ?今度からミーティングがキャンセルになったらもっと早めに教えてくれないか。そしたらわざわざこんな所に来る必要もない」

 颯人は食事半ばでフォークとナイフをテーブルに置いた。

 「仕事じゃないなら俺もう帰るから」

 溜息をつき席を立とうとすると、冴子が慌てて止めた。

 「ちょっと待ってよ。確かにミーティングはキャンセルになったかもしれないけど、仕事の話は色々とあるでしょう?」

 「仕事の話だったらメールか何かで十分だろ。前から思ってたけど、わざわざこうして会って話す必要あるか?メールでレポートでも何でも送ってくれたら家で確認するから。とにかく今度からそうしてくれ。それと親父に週末は接待を入れるなと伝えてくれ。前にも言ったんだけど、どうやら伝わっていないみたいだから」

 颯人はそう言うと席を立った。

 「ちょっと待ってよ。私はここからどうやって帰ればいいのよ」

 「タクシーで帰ればいいだろ。どうせ請求は会社に行くんだから」

 颯人はそう言い残すと、呆気に取られている冴子を残しレストランを後にした。

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