Rescue Me
 「帰る途中で立花さんが飲み過ぎで具合が悪くなってしまって……。それで酔いが冷めるまで姫野さんと一緒に待っていたんです」

 蒼はそう言うと玄関に立ちはだかる颯人を睨んだ。

 「どうしていつも私が責められるんですか?桐生さんだって毎晩遅く帰ってくるじゃないですか!」

 「それは仕事だから……」

 そう言いかけて蒼が悲しそうな顔をしているのに気付き、思わず口を閉じた。

 「いつも仕事仕事って……。桐生さんが忙しいのはわかってるんです……。仕事だから……仕方ない事だってちゃんとわかっています。でも今日は早く帰ってくるかなと、毎晩待ち続ける私の気持ちわかりますか?」

 そう言うと蒼は颯人から目を背け、バスルームに逃げ込み鍵をかけた。

 蒼はいつも颯人を締め出して自分の殻に閉じこもってしまう。本当は彼女に触れたいのに……抱きしめたいのにそれさえも拒絶されている様で辛い。

 颯人の脳裏に突然両親の事が思い浮かんだ。

 父親は仕事ばかりで家にも寄り付かず、母親はそんな父が嫌になり家を出た。もしかして蒼と自分も同じような運命を辿るのではないかと思うと、心が張り裂けそうになる。

 二人で一緒に生きていくという事はどういう事なのだろうか。

 明らかに自分の両親はその点において失敗している。これからの長い人生、自分の両親の様な運命を辿らず蒼と一緒に生きていく為には一体どうすれば良いのだろうか?

 蒼を失わないためにも、アメリカでの仕事は諦めるべきなのか……。そもそもこんな自分は蒼を幸せにできるのか……。颯人は答えが見つからないまま鍵のかかったバスルームのドアをいつまでも見つめた。



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