Rescue Me
 おそらく酔っ払いのたわ言で明日の朝には覚えていないのだろうが、彼の心の奥底が見え隠れしている。もしかして私が桐生さんのお母さんの様に、彼に愛想をつかせて家を出ていくとでも思っているのだろうか……?

 「どこにも行きません。だから安心して── 」

 「どうしてそうだと言い切れる?蒼にとって俺は初めての男だ。俺が他の男よりいいとどうして言える?」

 魂の奥から搾り出す様な声に、私は思わず彼を抱きしめた。正直こんなに不安に思っているとは知らなかった。

 確かに私は男性については経験が浅いかもしれないが、今まで彼ほど私の心を動かす人に出会った事がない。

 以前彼は私と付き合う時に完璧ではない自分も知って欲しいと言っていた。確かに変な事に臆病だったり面倒くさいところもあるが、本当はとても優しくて真面目な人だということを知っている。そんな彼の全てがとても愛しいと思う。

 「まだまだ桐生さんの一部しか知らないかもしれないですけど、完璧な桐生さんも完璧じゃない桐生さんも全部好きですよ。桐生さんが私をいらないと言うまでずっとここにいます。私が側に居たいんです。だから安心してください。喧嘩をしてても何をしてても、私の居場所は桐生さんの隣です。私も桐生さんを愛しています」

 私は彼の頭を子供をあやす様に優しく撫でた。きっと今言った事は明日になれば覚えていないだろう。それでも私は今の気持ちがちゃんと伝わる様に彼に言った。

 桐生さんはホッとした様に顔を私の首筋に埋めると、私を更に強く抱きしめ何か呟きながら、やがて私の腕の中で眠ってしまった。

 そっと起き上がると、床に落ちていたタオルで私と彼を拭いて片付けて再びベッドに入った。彼は既に死んだ様に眠っていて、ここ最近の疲労なのか暗闇の中でもひどく疲れた顔をしているのがわかる。

 そっと額にキスをすると、彼の疲れ切った顔をじっと見つめた。


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