Rescue Me
 オフィスで桐生さん宛の郵便物を処理しながら、彼にどうやって話しを切り出そうかと考えた。

 桐生さんが何を隠しているのか、または何を私に伝えたがっているのか分からない。でも今の私達はこのままだと駄目になってしまう。この現状を打開するためには話し合いをするしかないと思う。結局の所、私も桐生さんも恋人とはいえ元は他人だ。何も言わなければお互い何も分からない。お互いが不安になるだけだ。

 お昼を少し過ぎた頃、五十嵐さんから頼まれた会議用の書類を作成していると、桐生さんが会社に出勤してきた。相変わらず顔色がよくないものの、それでもよく寝たのか昨夜と比べると少しスッキリした顔をしている。

 彼が社長室に入っていくのを見届けると、私は急いで今朝出勤途中に買った二日酔いの薬や栄養剤、スポーツドリンクと一応コーヒーを持って社長室を訪れた。

 「桐生さん、具合どうですか?これ一応二日酔いの薬です。それと水分を沢山取ってください」

 そう言いながら、彼の前に栄養剤やドリンクなどさまざまなアイテムを置いた。しかし彼はそれらには見向きもしないで、私に手を伸ばした。

 「蒼、おいで……」

 私はデスクをまわり、彼の側に立つと差し出された手を取った。

 「……昨日は手荒くして悪かった。……大丈夫か……?」

 彼は二日酔いの少し掠れた低い声でそう言うと、空いてる方の手を伸ばし私の頬をそっと撫でた。

 「大丈夫です……」

 昨夜何度も愛していると言われながら抱かれた事を思い出し、思わず頬を赤くした。彼は一体どこまで昨日のことを覚えているのだろうか……。

 桐生さんは私の手を強く握りしめると、しばし黙ったまま私の手を見つめた。そして意を決した様に顔を上げ私を見た。

 「蒼……相談したい……と言うか聞いて欲しい話がある」

 「私も桐生さんに話したいことがあります」

 力強く同意する様に言うと、彼は震える吐息を漏らし私の手をもう一度強く握りしめた。いつも自信に満ちた彼の瞳は緊張なのか不安げに揺れている。

 「わかった……。今夜どうしても外せない接待があるが、それが終わったら必ず早く家に帰る。その時ちゃんと話し合おう」

 彼はそう言うとそっと私の手を離した。
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