Rescue Me
 その後、桐生さんは半日八神さんと打ち合わせをしたり溜まっていた仕事を片付けて、夕方「行ってくる」と私を見た後、会社を出た。私はそんな彼の後ろ姿をじっと見つめた。私達は本当にこれを無事乗り越える事が出来るのだろうか……。

 そんな事を考えていると、久我さんが私のデスクにやって来た。

「七瀬さん、今度八神副社長の接待に使おうと思ってるレストランの下見に行こうと思ってるんだけど、今から一緒に来ない?」

「……えっ、今からですか?」

 時計を見ると、就業時間が丁度終わったところで、秘書室には私と久我さんしかいない。五十嵐さんと八神さんは出先からまだ帰っておらず、今日は金曜日なのでおそらくそのまま直帰だろう。

「私、今日はちょっと用事があって……」

 桐生さんとの事があり、早く家に帰って彼を待ちたい私は、久我さんの誘いを断ろうとした。

「七瀬さんの帰宅路線沿いにあるんだ。今度の接待は女性も何人かいるから女性の意見も聞きたいし……。お願いできないかな?」

 そう言って久我さんは頭を下げた。

── ああ、もうどうしよう……。

 正直な話、今は桐生さんの事で頭がいっぱいで八神さんの接待の場所など考える余裕さえない。しかし悲しい事に私はいつも「NO」と強く言う事ができない。特にそれが仕事に関連していれば尚更だ。

「……わかりました……。レストランをただ見に行くだけですよね……?」

 私は一応念を押した。

「そう。レストランの下見だけ」

 彼はいかにも無害そうにニコリと微笑んだ。

「あの、今日はバイクじゃないですよね……?」

「今日は電車」

 私は大きな溜息をぐっと飲み込んだ。

「わかりました。では今すぐ行きましょう」

 私は荷物をまとめると、久我さんと一緒に会社を出た。彼は終始ご機嫌で、ニコニコと雑談をしながら時折鼻歌を歌っている。以前久我さんが私をバイクに乗せた時も鼻歌を歌っていたのを思い出し、彼を訝しげに見た。

……本当に大丈夫だろうか……?

< 163 / 224 >

この作品をシェア

pagetop