Rescue Me
 「桐生さんもこれで安心ですね。息子さん二人が後を継がれるので」

 「長男の海斗には国内を、ここにいる次男の颯人には来年より海外を任せるつもりです」

 誰かとても貫禄のある声の持ち主が話しているのが微かに聞こえてくる。

 「ここにいる結城が今後颯人をサポートしていく予定です。彼女は大晴グループ結城名誉会長のお孫さんでとても優秀な女性です」

 私は一気に体の芯まで凍りつくのを感じた。なんという偶然だろう。桐生さんの接待がこのレストランであったなんて……。

 まるでドラマのようだと思うものの、何と言ってもこの近辺で大きな接待ができるレストランという限られた場所にいる。これは偶然というよりも確率の問題なのかもしれない。

 「あの結城名誉会長の……!」

 男性から驚いたような声が聞こえ、その後バックグラウンドに流れている音楽に話し声がかき消されるものの、何か話したり笑ったりする声が聞こえてくる。

 「……ではいずれお兄さんがお父さんの跡を継がれるんですね。確かもう一人のお兄さんは今アナウンサーとして活躍されてますよね。いつもテレビで拝見していますよ」

 「ありがとうございます」

 結城さんの鈴の音のような美しい笑い声が聞こえる。その後また色々と男性の話す声が聞こえ、それと共に時折桐生さんの声も聞こえる。私はとにかく落ち着こうと震える手で水の入ったグラスに手を伸ばした。

 「……そうなんです。彼女もとても素晴らしい女性でして、今後颯人の公私ともに力になってもらおうと思っています」

 先ほどの貫禄ある声の持ち主がそう言うのが聞こえた。それを聞いた私は思わず手にしていたグラスを滑らせてしまい、床に派手な音を立てて割れてしまった。

 「ごめんなさい!」

 慌てて席を立つと、片付けようと咄嗟に屈んで割れたガラスの破片に手を伸ばした。

 「七瀬さん、触ったらダメだ!今お店の人に片付けてもらうから」

 久我さんは立ち上がると慌てて私の腕を掴んだ。

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