Rescue Me
 覚悟を決めると、一応足元を確かめてから木材の間から身を乗り出し手を伸ばした。そんな私を見て、久我さんはため息を付き何か言いたそうにしたものの、突然顔を上げ道路の方をじっと見つめた。

 私の服は雨と木材についている土埃であっという間に汚れてしまう。それでも木材の隙間に必死に手を入れて指を動かし「おいで」と何回か呼んでみると、子猫が私の方にミーと鳴きながら近寄って来た。その隙を見て子猫を掴むと一気に引き上げた。

 引き上げた子猫をみると、汚れてはいるものの比較的状態がよく元気そうだ。私はホッとすると薄汚い子猫を胸に抱いた。

 雨と土で汚れた子猫を撫でながら、結城さんの事を思い浮かべた。彼女は今頃美しいレストランで会社の重役や桐生さんのお父さんに囲まれながら桐生さんの隣にいる。それに比べ私はこんな所で雨でずぶ濡れになりながら捨て猫を胸に抱き立っている。

 私には彼女の様に桐生さんに差し出せるものが何もない。生まれも、洗練された容姿も、財力も、桐生さんを手助けできる物は何一つない。

 唯一誇れるものがあるとすれば、彼を誰よりも好きだというこの気持ちと、保護した犬を世話したり誰かに捨てられた猫を助けたりする事くらいだ。しかしそれだってとても些細なもので誰かの役に立つわけでも、この世界を救えるわけでもない。

 こんな何もない私でも、こんな何の役にも立たないちっぽけな事しかできない私でも、それでも桐生さんがいいと言うならずっと彼の側にいたい ──……

 そう思いながら子猫を撫でていると、濡れた私の体にふわりとスーツのジャケットがかけられた。顔を上げると、どこからか走って来たのか桐生さんが少し荒い息をしながらそこに立っていた。

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