Rescue Me
 「もしかすると俺は失敗して一文無しになるかもしれない」

 桐生さんはククっと笑いながら冗談とも本気ともつかないような口調で言った。

 「そしたら宮崎に帰って祖父のサーフショップを継ぐのはどうですか?丁度今、誰か継いでくれる人を探してるんです」

 私は少し冗談ぽくそう言った後、あの綺麗な海で祖父の様に彼が私達の子供達にサーフィンを教える姿を思い浮かべる。それはそれで悪くない未来かもしれない。

 ただ私には自信がある。彼は必ず成し遂げる。人一倍努力家で、チャレンジ精神が旺盛で、そして色々悩みながらもいつも最善を尽くしてくれる彼となら何処に行っても、何処に居ても必ず幸せになれる。

 桐生さんはそれを聞いて微笑むと、「大事なもの忘れてた」と言ってポケットから小さな箱を取り出した。それを見た途端私の心臓は止まりそうになる。

 「俺は蒼の事となると全くダメだな。本当はこれを見せながら『俺についてきてくれるか』って聞こうと思ってたのに」

 彼はそっと小さな箱を開けた。目の前が涙で霞んで、箱の中にある小さな指輪が見えなくなる。

 「蒼、愛してる。俺と結婚してほしい。全力を尽くして幸せにすると誓う」

 そう言って私にキスをした。

 「私も颯人さんのこと愛してます。でも本当に私でいいんですか……?だって……私、我儘で寂しがり屋でまた颯人さんに迷惑かけるかも……」

 すると彼は私の涙を拭きながら優しく私を見つめた。

 「もし俺が仕事ばかりしてて蒼の事を忘れてたら必ず教えてくれ。……そしたらどこにいても必ず蒼の所に帰ってくるから」

 彼は私の手を取ると美しいダイヤで飾られた指輪を私の薬指にはめた。そしてその指輪にまるで中世の騎士が忠誠を誓うようにキスをした。
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