Rescue Me
 「蒼、あまりこん詰めちゃダメよ。そんなに焦らなくてもまだまだあなた達には時間があるんだからね。ストレスだってあまり体に良くないのよ」

 「……うん、わかってる」

 頷いてみるものの、なかなか母の意見に同意できない。そんな私を母はじっと見つめた後、肩をぽんぽんとたたいた。

 「じゃ、おやすみ」

 寝室へ向かう母を見送った後、私もキッチンの電気を消して2階の主寝室に向かった。

 部屋に入ると颯人さんがベッドの上で眼鏡をかけながらPCで何か仕事をしていた。しかし私を見ると微笑んでパタンと閉じた。

 「おいで……。疲れただろう」

 彼は眼鏡を外すとベッドの上掛けをめくった。私は手にした御守りをベッド脇のテーブルに置くと彼の隣に座った。

 颯人さんは私が置いた御守りをちらりと見ると私を抱き寄せた。

 「また予約入れようか……?」

 「うん……」

 そう言うものの、最近自分でもどうしたらいいのか分からない。この子宮内人工授精の方法は颯人さんにとってもあまり心地よいものではないはず。なのに何も言わず快く付き合ってくれる。

 この治療を始める前、彼も一応検査していて彼には問題がない事がわかっている。要は私に問題があって経済的にも精神的にも大きな負担を彼にかけさせている事がとてもつらい。

 私が少し言いよどんでいると、颯人さんは私を覗き込んだ。

 「……蒼、治療少し休んでみるか?今の仕事がひと段落ついたら、休みをとって日本へ旅行でも行ってみるか?宮崎に遊びに行ってもいいし、それかゆっくりと温泉に行ってみるのもいいかもしれない」

 「うん……」

 颯人さんは私の考え込んでいる姿をしばらくじっと見つめた。しかし私が何も言わないと分かると、手を伸ばして照明を落とした。そしてベッドに横たわると私を抱き寄せた。

 「大丈夫。蒼は健康上何も問題はないんだ。お医者さんもそう言ってただろう?」

 そう言って私を元気付ける様にぎゅっと抱きしめた。そして私の額にキスを落とすと「おやすみ」と言った。

 しばらくすると彼の規則的な寝息が聞こえ、私は彼の温もりを感じながら何もない空間を見つめた。

 彼は子供がいなくても私さえいれば良いと言ってくれる。でも颯人さんは子供好きできっと良いお父さんになると思う。

 そんな彼に子供を産んでもっと幸せにしてあげたいと切に思う。でも気が焦るばかりで妊娠しないまま時がどんどんと過ぎていく──…
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