Rescue Me
 「お疲れ様。議題のメモは全て控えてある?」

 「はい。こちらにあります。後でまとめてメールします」

 「助かるよ。今日は七瀬さんがいたから英語での会議が楽だったよ」

 社長はそう言って微笑む。そんな彼を見ながら、私は先ほど思った事を尋ねた。

 「社長はとても流暢に英語を話されるんですね。昔留学された事がありますか?」

 「ああ、実はサンフランシスコのベイエリアにある大学に通ったんだ。今日の社長は昔大学で知り合ったんだ」

 私は納得して社長に頷いた。

 ベイエリアには有名な大学がいくつもある。おそらくその大学の一つに行ったに違いない。さすが社長だ。

 「なんか腹減ったな。何か食べてから帰らないか?」

 社長はネクタイを緩めながら車の方に歩いた。その姿からは男の色気がだだ漏れしていて、なんだかドキドキして落ち着かない。

 目のやり場に困り、慌てて腕時計を見るとすでに8時を回っていた。

 「そうですね。何か近くのレストランでも探しましょうか?」

 「七瀬さんはメキシコ料理好き?」

 長い会議でちょっと疲れていたのか社長は手ぐしで髪をかき上げた。

 髪が少し乱れ、目の上にさらりとかかり緩めたシャツから喉仏と素肌を覗かせている。上着をとってシャツを少し腕まくりし、微笑んで私を見る社長の色気と破壊力は半端じゃない。どおりで皆彼に恋をするわけだ。

 「はい。実は大好きなんです。アメリカにいる時はよく食べに行ってたんですが、日本に帰って来てからはあまりメキシコ料理を出しているお店を知らなくて」

 社長は私の返事を聞くと嬉しそうに答えた。

 「奇遇だな。実は俺も好きなんだ。アメリカにいる時は俺もよく食べたよ。それからテキーラとマルガリータも」

 ふふっと、それを聞いて思わず声にして笑う。社長が強いお酒を大学の友達と飲んでる姿が想像できる。

 「社長、お酒が好きなんですね。私はあのグラスの周りにまぶしてある塩が嫌いで」

 社長は私を優しい目で見つめた。

 「実はいいメキシコ料理店があるんだ。いいマルガリータもある。そこに一緒にいかないか?」
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