Rescue Me
 「あの、社長、この格好には理由があって……」

 「……知ってるよ。七瀬さんがわざと地味な格好で会社に来てたの。……しかし実際にこうして見ると、全くの別人だな……」

 社長が目を見開いてまじまじ見るので、私も彼をじっと見つめる。

 高級なブランド服を着てくるのではないかと心配していたが、意外にも彼は普通の服を着ている。しかしスタイルがいいのか、ただのジーンズとTシャツでも物凄くカッコいい。

 引き締まった腰、分厚い胸、シャツから覗く筋肉のしっかりついた腕。普段スーツ姿しか見ていない私は、彼が着痩せするタイプなのだと知ると同時に、その姿に思わず胸がドキドキと高鳴ってしまう。

 社長も私の別人ぶりに驚いたのか、しばらく頭のてっぺんから足のつま先まで見ている。私と目があうと、いきなりふいっと目をそらした。よく見ると彼の耳が赤くなっている。

 「あの、社長、お待たせして申し訳ありませんでした。今日は確か2時とお伝えしたと思ってて」

 「いや、時間があったからちょっと早めに来たんだ」

 私は再び時計を見た。少し早めだが今からペットショップに取りに行っても問題ないだろう。

 「あの、5分だけ時間をください。荷物を家の中に入れたらすぐに出て来ます」

 そう言い残して急いでアパートに入ると、荷物を置いてすぐに出て来た。

 「七瀬さん、こんなところに住んでたんだな。セキュリティーも何もないが大丈夫なのか?」

 そう言われて、何の変哲もない古い二階建てのアパートを振り返った。

 大型犬可のアパートがなかなか見つからずとりあえずここにしたのだが、あまりセキュリティーの面は気にしていなかった。New Yorkに住んでいた私はここでも十分安全な気がしたのだ。

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