Rescue Me
 「今週末はボルダリングに行かないか?」

 帰りの車の中で、社長は運転しながら私に話しかけた。

 「えっ……ボルダリングって岩を登るやつですよね?」

 朧げに壁にカラフルなホールドがあるジムを思い浮かべる。

 メキシコ料理を食べに行って以来、私は社長と週末よくスポーツをしている。私が昔からテニスをしているのを知って社長が誘ってくれたのがきっかけだ。

 最初は距離をやたらと詰めてくる彼に警戒心を抱いたものの、実際に一緒に出かけてみるととても楽しい。彼はなんと言うかエネルギーの塊の様な人で、とにかくバイタリティに満ち溢れ好奇心も旺盛だ。

 しかも運動神経が抜群で何をやらせてもうまい。この前は一緒にアイススケートに行ったのだが、初めてとは思えないほどいきなり上手に滑り出した。

 そんな彼と毎週出かけるのは実は最近ちょっと楽しみだったりする。とにかく元気一杯の社長は次々と新しい事を私にやらせて、一緒に過ごすのに全然飽きない。

 「私ボルダリングなんてした事ないんですけど……」

 「大丈夫。初心者はちゃんと落ちない様にロープをつけてくれるから」

 「また私に何か新しい事をさせようとしてますね」

 私は思わず笑った。

 「そうだな。七瀬さんにはもっといろんな事に挑戦してもらいたいんだ」

 彼の私を見つめる瞳はとても優しい。
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