Rescue Me
 振り返って見るとなんと高嶺コーポレーションで私にセクハラを何度もしてきた黒木(くろき)部長だった。

 「これはこれは、お久しぶりです。会長はお元気でいらっしゃいますか?」

 「黒木さん、お久しぶりです。」

 社長は立ち上がって黒木部長に挨拶をした。私も社長と一緒に席から立ち上がるが、お辞儀をした後俯いたままで顔を上げることができない。

 ── どうして黒木部長がこんなところにいるの。しかも社長と知り合いだなんて……。

 「いやー、奇遇ですね。こんな所でお会いするなんて。今日はこちらにはお二人でお食事を?」

 そう言いながら黒木部長は興味津々で私を覗き込んだ。すると彼もびっくりしたように目を瞬いた。

 「……君は七瀬さんじゃないか……!」

 「お久しぶりです。黒木部長……」

 だんだんと顔が青ざめていくのがわかる。社長はそんな私と黒木部長を交互に見た。

 「お二人はお知り合いですか?」

 「いやいや、知り合いというか、七瀬さんは昔うちの高嶺コーポレーションで働いてたんですよ。ねぇ」

 黒木部長は私の頭の天辺からつま先までにやにやしながら見ていて彼が何を考えているか大体わかる。

 「そうですか。彼女は今私の会社で秘書をしてるんです」

 「ああ、そうですか。なるほどねぇ。まあ七瀬さんは昔からほら、可愛いからねぇ。最近随分色っぽくなったんじゃないの? んん?」

 黒木部長はぽんっと私の肩に手を置いて肩を揉んだ。その手つきがゾッとして思わず硬直する。昔散々セクハラ的な事を言われたり触られた事が次々と蘇ってくる。

 「へぇー。そっか。君今は桐生さんの会社にいるのか。まぁよかったじゃないの。いい会社に雇ってもらって。何と言っても桐生グループの御曹司が社長の未来ある会社だ。やっぱり美人だといいねぇ。何というか色々と得するなぁ」

 黒木部長はそう言いながらククッと笑った。

 「黒木さん、彼女は優秀な秘書です。彼女の容姿とは関係ありません」

 社長は静かに黒木部長を見つめている。
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