Rescue Me
 そう言い終わるなり、お金をテーブルの上に置くと逃げるようにレストランを出た。急いでエレベーターに乗ると、こらえていた涙が一筋流れて落ちた。

 黒木部長が朝比奈さんの事を社長にあんな風に話した事が信じられない。

 せっかく忘れられたかと思っていたのに、結局はこの運命から逃れることはできない。どこに行っても悪夢のように後から追ってくる。


 ── 私、どうしてこんな目立つ容姿で生まれてきたの?どうしてもっと醜く生まれなかったの?


 エレベーターを降りると涙を必死に拭きながら最寄りの駅に向かって歩き出した。すると後ろから追いついて来た社長に腕をつかまれた。


 「七瀬さん……。蒼、落ち着け。大丈夫だから」

 「何が大丈夫なんですか?」

 私は涙で霞む目で彼を見た。

 「こんな容姿好きで生まれたんじゃない。もっと醜く生まれれば良かった」

 社長に触られたくなくて、腕を強く振りほどいた。

 「社長は男だから分からないんです。私がこの容姿のせいでどれだけ嫌な目にあっているか。一生懸命努力したって、何したって結局はこの容姿のことしか言われない。私だって本当はお洒落したりしたいのに、そんな格好をすれば誘惑してると言われる。さっきの黒木部長みたいにセクハラ的なことを言われたり最悪触られたり、そんなの日常茶飯事。その上不倫男からストーカーされたり……もうたくさん……」

 急に悔しくなってその場で泣き出した。そもそもどうして女として生れたんだろう。きっと社長みたいに男に生まれていれば、顔が良くてもこんな嫌な目にあうことはなかったのかもしれない。

 「蒼……」

 泣いている私を見ながら、社長は途方に暮れた様にもう一度手を伸ばした。

 「触らないで!!」

 男性である社長に触られることに拒絶反応を起こし、思わず大声で叫んだ。彼のせいではないとわかっているのに、精神的に体が受け付けない。

 「ごめんなさい……。しばらく1人になりたいんです。……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 そう言うと、私はその場から逃げるように走り去った。

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