Rescue Me

第8章

 颯人が会社に出勤すると、いつもならこの時間すでに蒼がデスクにいるのに今日はいない。

 「七瀬さんはどうしたんだ?」

 「今日は風邪でお休みだと連絡がありました」

 五十嵐さんは心配そうに顔を顰めた。

 颯人は大きな溜息をついた。こうなる事が目に見えていたのに何も出来ない自分に憤りを感じ、その辺の物に八つ当たりしたくなる。

 蒼はあの週末以来すっかり心を閉ざし、誰も、特に男性を全く寄せ付けなくなってしまった。ちゃんと食べていないのか顔色も徐々に悪くなり、風邪でも引いたのか昨日は具合が悪そうにしていた。

 「七瀬さんは、その、大丈夫なのか……?」

 心配で落ち着かないでうろうろしていると、篤希が出社してきた。

 「七瀬さんなら大丈夫だ。さっき電話で話したから。今日は金曜日だから週末ゆっくりして風邪を直せと伝えてある」

 篤希は颯人を睨み付けると、自分のデスクについてコンピューターを立ち上げた。

 颯人は篤希に近寄ると声を潜めて尋ねた。

 「彼女そんなに具合が悪いのか?」

 「颯人、彼女のことはあれほどそっとしろと言っただろう。何があったか知らないが── 」

 「違う。俺じゃない」

 颯人は苛立ち紛れに髪をかき上げた。

 「篤希、ちょっと話がある。」

 篤希と共に社長室に入るとドアを閉めた。

 「七瀬さんが以前働いていた高嶺コーポレーションでどんな扱いを受けていたか調べられるか?ついでに事業企画部の黒木部長もだ」

 黒木とはビジネスパーティで何度か会った事がある。彼は元々あの会社の専務と何か繋がりがあるらしくよく彼らが一緒にいるところを見かける。

 「は……?何言って……」

 「日曜日に七瀬さんと一緒に食事をしてた時偶然黒木部長に会ったんだ。そこでかなり嫌な事を言われたんだ」

 嫌な事なんてもんじゃない。あれは悪質なセクハラだ。あの日、蒼が全身全霊で颯人を拒絶した姿が忘れられない。

 颯人は初め彼女が男性に対して臆病になっているのは、もっと小さな事だと思っていた。しかし黒木とのやりとりを見て、かなり悪質なセクハラや嫌がらせを受けていたとわかる。

 蒼は美しく目立つ容姿の上に真面目で大人しい。黒木の様な男には、格好の獲物だったに違いない。

 「七瀬さん、大丈夫なのか?随分落ち込んでいたけど……」

 篤希は眉をひそめて颯人を見た。

 「わからない……」

 颯人は重い溜息をつくと、じっと窓の外を見つめた。

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