Rescue Me
 「女性の必要なものって言うのがよくわからなかったんだが、着替えとか化粧品とか色々あるから使ってくれ。シャワーを浴びたかったらキッチンを出て左側にある」

 渡された袋の中を見ると、下着や歯ブラシ、洗顔、化粧品などありとあらゆる物が入っている。

 「すみません、本当に何から何までご迷惑をおかけして。あのお金払います。おいくらでしたか?」

 「そんなこと気にするな。それより先にシャワーに行きたい?それともごはん食べる?」

 「えっと、それじゃ、シャワーをお借りしてもいいですか?」


 私は買い物袋を持ったまま洗面所に入ると、袋の中のものをいくつか取り出した。いつの間に買って来たのか、その辺のコンビニだけでは買えない物もいくつか入っている。きっとこれだけの物を揃えるのに、彼はあちこちと足を運ばせたに違いない。そんな彼の優しさが伝わってきて私の心はじわりと温かくなる。

 シャワーを浴びながら先日の黒木部長のことを思い出した。社長に私がろくでもない女で不倫騒動を起こして会社を辞めたと言われた事が、今だに忘れられない。あの日以来、この事ばかり考えてろくろく食べ物も喉に通らなかった。

 社長は黒木部長が言った事に対して何も触れてこないが、とても嫌な思いをしたに違いない。ある意味解雇されても仕方がないと思っていたのに、どうして彼がこんなに優しくしてくれるのかよくわからない。

 シャワーから出るとすでにごはんが用意されていて、野菜の入ったお粥に漬物が幾つか添えられている。

 「社長、料理ができるんですか?」

 あまりにも意外な社長の一面にびっくりする。

 「意外だったか?実はアメリカにいた頃日本食が恋しくて自分でほとんど毎日作ってたんだ」

 その気持ちがよくわかり、思わずくすりと笑った。

 「あの、何から何まで本当にありがとうございます。私なんとお礼を言ったらいいのか……」

 「まあ早く元気になってくれ。秘書がいないと困るからな」

 社長は優しく微笑むと一緒に食卓についた。
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