Rescue Me
 最後に試着したスーツは着たままで試着室を出ると、今度は大きな鏡があるところに通される。そこで分厚い眼鏡を取り除かれ、化粧やヘアアレンジを施される。

 化粧は私がいつもしているような少し控えめだが、大きな目が強調されるようなナチュラルメイクで、長い髪は巻いて後ろにふわりとまとめられ、スーツと合った清潔感あるスタイルになっている。最後にシンプルだが美しいダイヤのネックレスを私の首にかけた。

 「あ、あの、これお支払いはどうしたら……」

 私は次々と箱に詰めていかれるスーツを見ながら青ざめた。しかも首にあるこれは絶対に本物のダイヤだ。これ一体全部でいくらするんだろう……

 「それなら大丈夫です。すでに桐生様から全ていただいていますので」

 「ええっ!?」

 そんな驚いている私を尻目に、どんどんと箱を積み上げていく。

 「こちら残りは全て七瀬様のご自宅に配送しますね。では、急いで会社にお戻りください。すでにタクシーを待たせてありますから」

 そう言って私をタクシーに押し込めると、満面の笑みを浮かべて「ありがとうございました」とお辞儀した。


 混乱したまま会社に戻ると、受付を通り過ぎたところから、皆私のことを口を開けて見つめている。そのまま落ち着きなく秘書室まで戻ると、五十嵐さんが私を見て嬉しそうに微笑んだ。

 「七瀬さん、とっても似合ってるよ。やっぱりこっちの方がずっと君らしいよ」

 五十嵐さんが心から喜んでくれているのがわかって心がじわりと温かくなる。

 「ありがとうございます。あの、午後からの会議の準備は?」

 「大丈夫、全部終わったから。社長がお待ちだから行っておいで」

 私は五十嵐さんにお礼を言うと社長室のドアをノックした。
< 60 / 224 >

この作品をシェア

pagetop