Rescue Me
 「どうぞ」

 低い声が聞こえ、緊張した面持ちで中に入ると社長は顔をあげてじっと私を見つめた。

 「とても似合ってるよ」

 「あの、社長、スーツとネックレスありがとうございます。でも、どうして……?」

 彼はゆっくりと椅子から立ち上がると、私の方に歩いてきた。

 「蒼はこれからは自分を隠したりしないで堂々と生きればいいんだ。もう誰も君を傷つけさせたりはしない。必ず俺が守る」

 そう言って私の胸に輝くダイヤのネックレスを指でなぞった。つっと指で触れたところが熱くなる。

 「今日の午後の会議にはこの服装のまま一緒についてきてメモをとってくれ」

 そう言うと彼は机に戻り再び仕事を始めた。


 その日の午後、会社のそれぞれのプロジェクトの進行状況の報告を兼ねた会議に社長と一緒に出席した。

 私のこの格好を見て初めは皆驚いたように一瞬目を見開いたが、その後は特に何でもなかったように会議が進む。いつもだったらジロジロと男性から見られるのにそのような事が全くない。

 その後、何日も経つが結局誰も私の姿を気にする人は一人もおらず、私は平和に仕事を続ける。あれだけ高嶺コーポレーションでセクハラや嫌がらせを受けていたのが嘘のようだ。

 やっぱり、あの会社が異常だったのかも。普通はこの会社のように特に私が心配するような事は何もないのかもしれない。
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