Rescue Me
 「颯人さん!」

 「佐伯(さえき)社長、お久しぶりです」

 私は社長の腕に馴れ馴れしくしがみつく佐伯社長を見た。彼女は広告代理店の社長で、時々彼に仕事のことで相談があると電話がかかってくるので覚えている。

 実際に会うのは初めてだが、彼女はおそらく社長よりも少なくとも十歳は上なのではないかと思う。しかし彼女は四十代とは思えないほど若々しい格好と容姿をしている。

 綺麗にマニキュアされた爪や若く見える様に化粧された顔、長い艶々の髪は若々しさを全面に引き出していて、パッと見た目は社長と同じ歳に見える、まさに美魔女だ。

 「颯人さん、この後ぜひ一緒に飲みませんか?」

 彼女は社長にしなだれかかり、彼を上目遣いで見た。チラリと横目で麗奈さんを見ると、すごい形相で佐伯社長を睨んでいる。

 「申し訳ありません。今日はこの後すぐ出張に行かなければならないので」

 「あら、そうなの?いつお戻りになるの?」

 佐伯社長は少しがっかりした顔をした。

 「今回は十日間の出張になります」

 「そうなの。では帰ってきたらぜひ一緒に会いませんか?」

 「そうですね。最近は少しスケジュールが詰まっているので、私の秘書と確認を取っていただけますか?申し遅れましたが、こちら私の秘書の七瀬です」

 社長はいきなり私の腰に腕を回すと、彼の方にぐいっと引き寄せた。佐伯社長と麗奈さんは彼のその親密な仕草に目を見開いて私を見た。

 ── どうしてこの人は無駄にモテるの……

 「初めまして。桐生の秘書を務めております七瀬蒼と申します」

 内心冷や汗をかきながら、二匹の猫に睨まれたネズミのような気分で二人に挨拶をした。
< 64 / 224 >

この作品をシェア

pagetop