Rescue Me
 ──どうして…またここに黒木部長がいるの?それに一条専務も……。

 先ほど司会者が話している時に感じた視線は、黒木部長に違いない。社長が先ほどからやたら私に周りを見るなと言ったのは、恐らく彼らがここにいるのを知っていたからだろう。

 一条専務は元々やり手のビジネスマンで、高嶺コーポレーションがここまで安定した成長を遂げているのは彼のお陰だと聞いている。その為、彼は会社では絶大な力を持っていて、ある意味社長以上と言っても過言ではない。

 一条専務には入社して間もない頃、会社の社内イベントで目を付けられたことがある。

 彼は私を一目見て気に入り、それを見た上司が専務の世話をして来いと、そのイベント中ずっとホステスのように世話をさせられた事がある。その後お礼に一緒に夕食をしないかと誘われたが、全力で拒否した私は愛想が悪いだの散々嫌がらせを受ける羽目になった。

 一条専務はなぜかいつも黒木部長を贔屓にしていて、私が働いていた時もよく二人でいるのを見かけたことがある。その為、黒木部長は社内でも大きな権力を必要以上に持っていて、誰も彼に逆らうことが出来なかったのを覚えている。

 息が乱れ徐々に体が硬直し軽い目眩を感じた時、社長の力強い腕が私を支えた。顔をあげて見ると彼の真剣な視線とぶつかった。

 「大丈夫だ。俺を信じろ」

 彼はそう囁くと、背中に回した手で私の手を後ろ手に握りしめた。彼の手は温かく、ぎゅっと力強く握られ乱れていた心が次第に落ち着きを取り戻す。

 「葉月社長、いつもお世話になります。桐生社長、お久しぶりです」

 一条専務は葉月社長と社長と握手を交わし、続いて黒木部長も二人と握手をした。黒木部長は私の姿を舐める様に見ていて、思わず社長の手を握りしめた。
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