Rescue Me
 「おや、君はどこかで会ったことがあるかな?」

 握手を終え、一条専務は私をじろりと見た。

 「こちらは七瀬で、現在私の秘書をしております。以前は御社で働いていました」

 社長は一条専務をまっすぐに見据えた。

 「うちで働いていたのか?」

 一条専務は意外そうな顔をして私を見る。すると黒木部長が小声で何か彼に囁いた。

 「ははは。そうか。あの七瀬さんか」

 一条専務は私を思い出したのかニヤニヤと笑った。

 私は俯いて祈るような気持ちで目を閉じた。もし彼がここでこの前の黒木部長のように、社長や会社に迷惑をかける様な事を言われたら私は二度と立ち直れない。すると突然桐生社長は話を切り出した。

 「今丁度葉月社長と、これからの事業展開のお話をしていたところだったんです」

 「そうなんです。実は桐生社長とも先ほどお話ししたんですが、コスト削減など視野に入れてどこかと共同で開発出来ないかと模索してるところなんです」

 葉月社長は、先ほど社長に話していた内容を一条専務と黒木さんに話した。すると一条専務はそのビジネスに興味を示し、嬉しそうに葉月社長の肩をぽんぽんと叩いた。

 「そうですか。いや、実は葉月社長の会社の技術はとても素晴らしいと社内でも話題になっていてね。丁度今そのお話をしに来たところです。どうですか、一度ゆっくりと詳細をお話しませんか?一緒に飲みながらでも」

 すると何を思ったのか、桐生社長は突然ククッと低く笑った。

 「葉月社長、私だったら仕事を一緒にする前に、まずはその会社の事を調べますね」

 「えっ……?」

 葉月社長は驚いて社長を見た。

 「葉月社長の会社は、今度の国際エキスポにも参加されているクリーンなイメージのある会社だ。その会社が、横領した金でまだ未成年かも知れない若い女性と淫らな行為をしている役員や社員を抱えている会社と、事業提携したなんてわかったら大変だ。それこそ会社のイメージがガタ落ちだ。最悪国際エキスポの参加取り消しだって考えられる」

 「一体何の事を言ってるんだ?」

 一条専務は少し困惑気味に社長を見た。
< 69 / 224 >

この作品をシェア

pagetop