Rescue Me
 「桐生社長、本当ですか?……何と言うか教えて頂き有難うございました」

 葉月社長は社長が落とした爆弾発言に唖然としている。もちろん葉月社長だけではない。私を含め周りで聞いていた他の会社の人達もだ。

 「お役に立てて良かったです。葉月社長は我が社にとって大切なお客様です。以前から高嶺コーポレーションには色々と悪い噂があったので調べていたのです」

 「いやいや、流石桐生さんですね。こちらこそ今後ともよろしくお願いします」

 葉月社長は社長に何度もお礼を言うと去って行った。

 「じゃあ、ここでの用事も済んだ事だし俺たちも行くか」

 社長はそう言うと私の手を引いた。

 ──えっ……? もしかしてこの為にこのレセプションに出席したの……?

 私は会場を一緒に去りながら隣を歩く社長を見上げた。

 本来出張には今日の昼の便で発つ予定だったのに、急遽このパーティーに参加したいからと飛行機を夜の便に変更したのだ。

 わざわざ予定を変更してまで出席するなら余程大切な用事なのかと思っていたのに、もしかすると黒木部長と一条専務の事をこの場で公にする為に出席したのかもしれない。それももしかすると私の為に……。


 「よく頑張ったな」

 ホテルのロビーへと向かいながら、社長は優しく私の肩を抱いた。なぜだか泣きたい気持ちになり必死に涙を堪えて彼を見た。彼を好きだという気持ちがとめどなく溢れてくる。

 自分の気持ちが抑えられなくなり、感謝の気持ちも込めて精一杯の笑みを浮かべた。

 「社長のお陰です。ありがとうございます」

 優しいダークブラウンの瞳が戸惑ったように揺れて、しばらく私を見つめた後、苦しげに目を逸らした。
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