Rescue Me
 「これから出張だけど、俺がいなくて寂しい?」

 社長は冗談めいたように私に尋ねた。ここ最近、平日も週末もほぼ毎日一緒に過ごした。たったの十日間だが彼と会えないと思うととても寂しい。

 「はい。……寂しいです」

 私は思わず思っている事をそのまま口にした。

 でもしばらく経っても彼は何も言わない。言い方を間違ったかと思い、焦って訂正しようとしていると、社長はいきなり私を人気のない通路に引きずり込んだ。

 「蒼、ごめん……。もう我慢できないかも……」

 そう言うと同時に彼は身を屈めるとゆっくりと私の顔に近づいて唇を重ねた。

 初めてのキスは様子を伺うように彼は何度も私の唇に優しく軽く吸い付いてくる。一瞬驚いて体がこわばったものの、次第にリラックスして目を閉じ彼に身を預ける。すると社長は両手で私の顔を包み込むと長く深くキスをした。

 彼の舌が私の唇の隙間から潜り込んできて、何度も角度を変えながらキスをしては私の舌を絡め取ろうと深く執拗に追いかけてくる。心臓が破裂しそうなほど早鐘をうち、酸欠にもなっているのか徐々に意識も白濁してくる。

 次第に力が抜けて崩れ落ちそうになる私を社長は強く抱き寄せると、まるで永遠の別れを惜しむかのように甘く切ないキスをした。

 「……すぐ帰ってくる」

 唇を離した彼は感情の高ぶった掠れた声で私に囁いた。

 「蒼に話したい事がある。帰ったら一度ゆっくり話をしないか?」

 私は乱れた息を何とか整えながらコクコクと頷いた。


 社長はこの後空港へ直行するのでホテルを出ると私を一人タクシーに乗せた。

 「……気をつけて帰れよ」

 「はい。……社長もお気を付けて……」

 タクシーが私を乗せて走り出す。

 振り返って、ホテルのエントランスでずっと佇んでいる彼を、見えなくなるまでずっと見つめ続けた。


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