Rescue Me

第11章


 「ねえ、あれって西園寺さんじゃない?」

 ちょうどお昼を姫野さんと一緒にした後会社に戻って来ると、受付で女の人が言い争っているのが見えた。

 ──この人の存在すっかり忘れてた……

 桐生社長が彼女からの電話を全く受け付けないので、ここ最近電話もかかってこなかった為かすっかり頭から抜け落ちていた。

 西園寺さんは長いモカブラウンの髪を緩く巻き、大きな目と赤いぷるぷるの唇はまるで大人になったばかりの少女のような女性だ。

 淡い水色の上品なカーディガンとそれとお揃いになったロングスカートを着ていて、服は体の曲線がはっきりわかる少しタイトなものになっている。それに何よりも目立つのは、体の線が細いのとは対照的な派手な……というか大きな胸がある事だ。

 お昼休みが終わり社員がポツポツと帰ってきていて、西園寺さんを皆興味深げにチラチラと見ている。そんな中、突然彼女は振り向き私の存在を認めると、勢いよく私の方に向かってきた。

 「あのー、颯人に会いたいんですけど、あなたが彼の今の秘書?」

 彼女は私を頭の天辺からつま先まで何度もジロジロと見た。急に以前彼女が前の秘書と取っ組み合いの喧嘩をしたと、姫野さん達が話していた事を思い出した。

 「はい。社長の秘書を務めております、七瀬蒼と申します。社長は先日より出張で来週まで不在となっております。もしご用件がございましたらお伺いします」

 私は丁重に頭を下げた。

 「ふーん。あなたが七瀬さんね……」

 西園寺さんは目を細めて私を値踏みするように見た。

 「私、西園寺流花と言います。颯人とは幼馴染で彼の家族ともとても親しいの。彼にとってとても特別な存在なの」

 「……承知致しました。あの、何か言伝がありましたらお預かり致します」

 私は社長の不在中に何か揉め事を起こしてはならないと、必死にこの場をやり過ごすよう彼女に再び頭を下げた。彼女はそんな私をつまらなさそうに見た。

 「……颯人には無いけど、あなたにあるわ。私の颯人には手を出さないで」

 彼女はそう言い残すと颯爽と去って行った。


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