Rescue Me
 その後大きめのバッグに水や袋など散歩に必要な物を詰め込むと、きなこと一緒に外に出た。

 「あら、七瀬さん。可愛いわねー。この子は新しい保護犬?」

 このアパートの大家さん、成瀬(なるせ)さんがやって来て、きなこに近寄ると頭を撫でた。きなこは大喜びで地面に寝転がりお腹を見せている。

 成瀬さんはこのアパートの後ろの家に住んでいて、何かあるとすぐに対応してくれるとてもいい大家さんだ。彼女自身も家族で犬を飼っていて、私が保護団体から時々犬を連れて帰ってくるのを快く許してくれる。

 ここは一応大型犬可のところだが、入れ替わり見知らぬ犬を連れて来るのを嫌がる人もいるので、なるべく一ヶ月に1回か多くても2回程度で、私が必ず家にいる週末だけにしている。

 「そうなんです。でも飼い主が既に決まっていて明日引き取られる予定なんです」

 「あらそうなのね。可愛い犬ね〜。うちも飼えるなら飼いたいわ〜」

 成瀬さんは名残惜しそうにきなこを撫でるとどこかへ去って行った。

 私はきなこを連れて散歩へと歩き出した。すでに七ヶ月で成犬に近い大きさだが、何と言ってもまだまだ子犬。エネルギーの塊の様なものだ。長い散歩をして、とにかく思い切りストレスを発散させないといけない。

 きなこと一緒に歩きながら、西園寺さんと桐生さんの事を延々と考えた。

 姫野さん達の話だと西園寺さんは彼の許嫁だという事だが、桐生社長から直接聞いたわけではない。もしかしたら彼女は許嫁などではないのかもと淡い期待を抱くものの、不安は拭えず気分は晴れない。

 指で自分の唇にそっと触れた。彼にキスされた感覚が残ってるようで未だ忘れられない。彼が愛おしいものでも扱っているかのように何度も私の背中を撫でながら、優しくも切ないキスをしたのを思い出してしまう。

 ── どうして私にキスをしたの?私の事をどう思っているの?帰ってきたら私に何を話すつもりなの?

 次々と疑問が頭の中に浮かび上がり、心の中がぐちゃぐちゃに掻き乱される。


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