Rescue Me

 もちろん朝比奈さんとは付き合ったことはないので、奥さんには何度も説明してなんとなく誤解は解けた。それでも社内で色々な噂が広がり、結局いたたまれなくなってしまった。

 その後退職したが、今度は朝比奈さんが奥さんと離婚すると言いだしてストーカーの如く私が住んでいるアパートに来るようになった。結局そのアパートにいることもできず、丁度契約更新の時期も迫っていたことから、解約してお引越し。

 全くこの容姿は損である。女性からは妬まれ、ろくでもない男から言い寄られ問題が後を立たない。可愛いものが好きでお洒落したいのに、目立つ為それすら安心してできない。

 私はよちよちと歩くココアとポテトを見た。

 犬は可愛い。何せ私の見た目で判断しない。私の事を好きになってくれるのは純真な心からだ。その裏には下心も何もない。

 朝比奈さんの事件から最近よく思う。もう変な男に言い寄られるのはこりごりだと。私には男も恋愛も必要ない。おそらく犬がいれば一生幸せに暮らしていける──


 次の日、私は面接の時と同じ格好で新しい職場、桐生(きりゅう)クリエーションのあるビルの前に立った。

 髪は後ろにきつく一本に結び、長めの前髪はピンできっちり留めている。顔には分厚い眼鏡をかけ、洋服も地味な体の曲線が全く分からないグレーのスーツだ。

 生きて行くためには仕事をするしかない。そして変な問題でまた会社を辞める羽目になりたくない。今度は静かに目立たないよう仕事をして長く勤められるよう頑張ろう!

 そう決意した私は、よしっと意気込むと新しい職場へと一歩踏み出した。

< 9 / 28 >

この作品をシェア

pagetop