Rescue Me

第15章

 「と、届かない…」

 私が必死に背を伸ばしながら給湯室でハーブティーを取ろうと棚の上に手を伸ばしていると、突然背後から手が伸びた。

 「これか?」

 社長がひょいと手を伸ばし、私が先ほどから苦戦して取ろうとしていたハーブティーの箱をいとも簡単に取った。

 「何だそれ?」

 「カモミールティーです。社長先ほどからずっとコーヒーばかり飲んでいらっしゃるので、たまには胃を休めてハーブティーを飲んだらどうかと思っ……て……」

 社長はとんっと両手をシンクの縁について、私を彼とシンクの間に囲った。

 「……今日俺の家に来る?」

 彼は無駄にフェロモンを放ちながら私に囁いた。社長は体温が伝わってきそうなほど近くて、なんの香水なのか知らないけど、なんだかいい匂いもしていてだんだんと体から力が抜けてくる。

 社長は私と付き合うことにしてから、暇さえあれば私を見つけて誘惑してくる。彼の場合ただそこに立っているだけで抗えない色気があるのに、こうして本気でこられると彼が淫魔か何かに見えて体が全く彼を拒めなくなる。

 「……今日はちょっと用事があって……」

 「じゃあ、明日は?」

 社長は私の唇を指でなぞると、甘えるように耳に囁いた。先ほどから私の心臓は、音がはっきりと聞こえるくらいドキドキしている。

 こうして家に誘っているということは、彼に抱かれるのかも……。

 そんな事を思った瞬間、キスされた時の唇や首筋を撫でる彼の指の感触を思い出す。それと同時に以前ベッドで一緒に眠った時の逞しい彼の上半身を思い出し、思わず赤面してしまう。私はざっと今持っている下着を思い浮かべた。

 ── ダメだ。やっぱり今日会社帰りちゃんとしたのを買ってこよう。あと可愛い洋服とパジャマも欲しいかも……

 コツコツと足音が聞こえてきて、私は慌てて社長を押し退けて距離を取った。

 「おい、颯人、ここにいるのか?」

 八神さんはひょいと給湯室に顔を覗かせると、私と社長が慌てて離れるのを見て呆れたような顔をした。

 「颯人、人の仕事の邪魔をする時間があるなら、早くさっきの案件にサインしろ」

 そういうと彼は給湯室から去って行った。社長はそんな八神さんを見ながら「あいつは俺の母親か」と呟くと、

 「明日家に来いよ。迎えに行くから」

 そう言って私の頬にキスを落とすと八神さんの後を追った。
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