Rescue Me
 車の中で何事もなかったかのように仕事の話をしていた社長は、アパートに着くといつもと違ってゲストパーキングに車を入れた。彼がいつもの様に車を道路脇に停めて私を降ろさないので、少し困惑して眉根に皺を寄せた。

 「あの、どうして車をここに……?」

 「手伝うから荷物を全部まとめるんだ。今日から俺の家で暮らせばいい」

 「えっ……って、どうして?」

 「ストーカーされてる恋人をこんな所に一人で暮らさせるわけないだろ」

 彼が前からこのアパートの事を心配していたのは一目瞭然で、なかなか反論できない。

 「でもこれ以上社長に迷惑をかけるわけには……」

 「いいんだ。どうせ一緒に暮らそうと思ってたところだから」

 「えっ、でも……私達付き合うと言ってからまだ2日ですけど……」

 「どうせ一緒に暮らそうと思ってたんだから、今一緒に暮らすのも後で暮らすのも一緒だろ」

 「……でも……」

 私が言い淀んでいると社長はぼそっと呟いた。

 「……いいんだ。どうせ時間もないし」

 「えっ……?」

 彼の言った言葉の意味がよく分からず、聞き間違えをしたかと思っていると、

 「ほら、いいから行くぞ」

 と言って社長は車から降りた。私も慌てて降りて彼に追いつくと、アパートの一階にある自分の部屋のドアまで来て鍵を開けた。




 狭い玄関に社長と一緒に入ると、暗い部屋のスイッチをつける。部屋に明かりが付き、私のささやかな部屋が浮かび上がった。

 「へー、これが蒼の住んでる部屋か」

 社長は部屋に上がると、あたりを物珍しそうに見回した。元々大きな部屋ではないが、大柄な彼が中に入るといつもより余計狭い部屋に見えてしまう。

 「特に何もない部屋ですけど、どうぞゆっくりしてください。社長のマンションみたいには広くないですけど」

 社長をリビング兼ダイニングルームに通すと、荷物をラックにかけた。
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