満月の誘惑
そうじゃないから、腹立たしい。
でも旦那様は違った。
私の過去の話はしていないのに、傷ついた人こそ強いと、まるで旦那様も同じ道を通ってきたかのような口ぶり。
「旦那様も…」
「柚葉、何で泣いている。どうした」
「私、泣いてなんか…」
自分で泣いていることにも気づかず、頬に両手をあてると冷たい水滴が手について、初めて状況を把握した。
慌てて涙を拭こうすると、音を立てずに立ち上がった旦那様がこちらに近づいてきて、私の斜め前で跪く。
一つも無駄のない動きで着物の袂を手繰り寄せて手に取ると、頬にあった私の手をゆっくりと剥がして、私の涙を拭ってくれた。