満月の誘惑
それでも貴方を愛しています
人間から狼になる瞬間を目撃してしまった。
疑いがあって見ていても、頭のどこかでは狼人間だなんて思いたくない自分が居て、旦那様としての優しさが無くなった獣を前にして、ショックを隠せない。
その場から動けず、草むらに座り込んだままでいると、旅に出ようとする狼に変わってしまった旦那様と目が合った。
佃荘司としての意思が残っておらず、私に牙を向けている。
「旦那様…。荘司、さん」
まだ名前を呼べば、旦那様の体の意識を人間に向けられるかもしれない。
それで運良く戻れば、連れて帰って治療しよう。
なんて甘い考えは通るわけもなく、名前を呼ぶと目を大きく開き、天を仰いで遠吠えをした後、私に向かって走って来た。