満月の誘惑




もう終わりだ。

反射的に抵抗して自分の身を守ろうと、一歩下がった時。



草に足を取られバランスを崩してその場に倒れ込むと、私に飛びつくことなく、その横を通り過ぎて森の奥深くへ消えた。



まだ近くで遠吠えが聞こえる。しかも何匹も。





「怖かった…」



踏ん張っていた足を見ると、小刻みに震えている。


好きだと分かった相手が獣で、その人に食べられる運命って…。幸せとは言えない。



自分の命を捧げられるほどまだ強くないし、半世紀も生きていないのに。





「…あ、やっちゃった。どうしよう…」




森に私一人になって、少し強張りが解けたのか、失禁してしまった。


赤ん坊でもないのに。



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